これでもくらえ、くそったれ

愛を語る場所だよ。

大切なことはみんな『ダイ・ハード』から教わった。

ツイッターを眺めていたら、平成が終わるということで「#私の平成ベスト映画」というハッシュタグを見つけまして、ひとりの映画好きとして改めてブログに書き記しておくことにしますが、僕の平成ベスト映画にして、オールタイムベストにして、すべての条件化でのベスト・オブ・ベスト映画は『ダイ・ハード』です。

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日本公開は1989年2月4日なので平成の映画とさせて頂きたい。

オールタイムベストというのは、その人の映画観、さらに言うなれば人生観をも反映させた作品と言っても過言ではないと思います。僕にとって、そんな大切な作品が『ダイ・ハード』です。5年ほど前に死ぬほど悩んで決めました。これが僕の映画観の指標となっているのは間違いのない事実であり、今後も変わることはないと思っています。

しかしオールタイムベストを『ダイ・ハード』決めるのは非常に勇気のいることでした。『ダイ・ハード』は最高の映画であると自信を持って言えるし、もちろんどんな映画よりも大好きです。しかし胸を張って「オールタイムベストはダイ・ハードです」と言える程『ダイ・ハード』を本当に愛しているのか? という疑念が、僕の中でシコリの様に現れて、なかなか決心が付きませんでした。僕にとって…『ダイ・ハード』って…なんだろう…という思案の答えを見つけるのは、それはまさに自分探しの旅と同じでした。

僕が『ダイ・ハード』と出逢ったのがいつだったか、それはもう記憶に無い程遠い昔のことです。幼少のみぎりより、父親の横でアクション映画を見て育った僕は、自然とアクション映画に魅了されていきました。昔はストーリーなんて分からないから、ただ銃撃戦や殴り合い、爆発シーンを見て興奮して喜んでいました。そしてカッコいい俳優を見ては憧れ、その真似をして遊ぶ少年でした。『T2』のアーノルド・シュワルズネッガーのショットガンのリロードを傘で真似したり、『コブラ』のシルベスタ・スタローンのようにマッチを咥えたかったけど怖かったので爪楊枝を咥えたり、そんなアクション大好き少年だったので、きっと小学生低学年の頃に、テレビ放映されたダイ・ハードに出逢っていたと思います。

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マッチを咥えたマリオン・コブレッティさん。男なら真似したくなるカッコよさ。

ダイ・ハード』は面白かった。初めて見た時から、すぐに大好きな映画になりました。当時はストーリーなんて興味が無かったので、会話のシーンは飛ばして、アクションシーンだけを見ていました。メガネ悪党(トニー)との殴り合い、長髪の悪役(カール)との死闘、追い詰められて換気ダクトを逃げるシーン、プラスティック爆弾を放り投げて爆風に巻き込まれて爆笑するシーン、そして消化ホースを身体に巻いて屋上から飛び降りるシーン⇒そして窓ガラスをぶち破るシーンという一連のシークエンス、そのすべてが最高に僕を興奮させました。子供の僕は何回もアクションシーンだけを見返しては、ダイ・ハードごっこ1人でしていました(『ダイ・ハード』を見ている子供なんて周りに1人も居なかったので)。もちろん学校をテロリストが占拠して…式の妄想も小学生の時からしていました。ジョン・マクレーンは僕の憧れのヒーローでした。

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テーブルの上からジャンプするダイ・ハードごっこをして怒られていました。あの時、僕はマクレーンだった。

ダイ・ハード』の魅力にすっかり魅せられた僕は、親父に「ダイ・ハードって、何て言う意味?」と聞いたこともありました。純粋な子供の疑問に、親父は「ダイは大、つまり大きいとか凄いとかって意味だな。んで、ハードは辛いって意味だ。だからダイ・ハードめっちゃ辛いって意味だよ。主人公はめちゃめちゃ辛そうだろう?」とスーパー適当な事を言った。純心な僕は信じた。本当の意味を知るのは、もっとずっと後の話になります。今でも何故親父があんな適当なことを言ったのかは謎です。

中学生の時、ようやくストーリーも見るようになりました。『ダイ・ハード』はストーリーも面白かった。無線での悪役とのやり取りは映画の緊張感を高め、パウエル(外の相棒警官)との会話は安心感を与えました。マクレーン刑事が今までの映画に無いヒーロー像だと知ったのもこの頃でした。それまでのアクションヒーローは『ダーティー・ハリー』のクリント・イーストウッドや、『コマンドー』のシュワルズネッガーや、『ランボー』のスタローンのような浮世離れした人物像でした。ところがマクレーンは泣き言も小言も弱音も、ユーモアを交えながら吐く今までにないヒーロー像で、「もう嫌だ!誰に頼まれたって、高いビルには登らない!」「どうして俺がこんな目に!」などと叫ぶ人間味溢れるキャラクターは、それまでにない新鮮なものでした。

そして僕が最も魅力的に思ったのは“笑顔”でした。マクレーン以前のヒーロー像はほとんど笑うことはありませんでした。笑ったとしてもニヒルに笑うだけだったり、感情的になって笑う事はありませんでした。しかしマクレーンは爆笑します。悪党にプラスティック爆弾を喰らわす後に爆笑するし、ラストシーンで悪党と対峙する時でも爆笑します。そんなヒーロー他にいません。その違いは、僕にとって、とても新鮮でした。ブルース・ウィリスの人懐っこい笑い顔は、マクレーンのキャラクターにピッタリでした。(その意味で『ハドソン・ホーク』はウィリスの魅力を活かせている作品なので、僕は大好きです。)

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大笑いのマクレーンさん

ホワイトカラーな悪役(ハンス・グルーバー)も今までに無いヒール像でした。マクレーンがタンクトップ姿なのに対し、ハンスはブランドスーツに身を包み、知的な立ち振る舞いをします。劇中に一切衣服を乱さないハンス、対するジョン・マクレーンはボロボロになりながら、血みどろになりながら、愛する妻を救うために戦う。その対比が両キャラクターをより魅力的なものにしていました。

高校の3年間はほとんど映画を見ていなかったのですが、その反動からなのか、大学入学と共に僕の映画熱は再発し、『ダイ・ハード』を見返しました。もう何十回と見返した映画です。台詞もほとんど覚えています。しかし、この時になってようやく僕は、その緻密な脚本に気づきました。

ダイ・ハード』は伏線だらけの映画です。例えば、冒頭でマクレーンが「高いところが嫌いなんだ」と飛行機でぼやきますが、これは屋上から飛び降りるシーンの小言で回収されます。また、これまた冒頭で「裸足で指を丸めると高所恐怖症が治りますよ」とアドバイスを貰うシーンがありますが、裸足で駆けずり回る設定で回収されます。他にも、妻であるホリー・マクレーンは会社で旧姓を名乗っていて、それが映画内ではいろんな場面で活かされていました。ホリーが会社から貰ったロレックスが、ラストシーンに活かされるのも痺れます。全てのシーンにはきちんと意味があり、無駄なシーンは無い濃密な映画なのです。

伏線回収は以下のHPに詳しいです。
参考:ダイ・ハードを10倍楽しく観る方法

と、何だかまとまらない感じになってきましたが、とにかく『ダイ・ハード』は見れば見る程に面白さが発見できて、何度見たって飽きる事がありませんでした。テレビ版の吹き替えも作品をより魅力的なものにしていると思います。因みに、僕が子供の時に見ていた録画ビデオが村野武範版だったので、野沢那智さんより村野武範さんの方がしっくりきます。

そんなに大好きな『ダイ・ハード』だったのに、僕は大学時代に「一番好きな映画は?」と聞かれれば、「レオン、かな」と言っていました。『レオン』は、失礼を承知で言いますが、使い勝手の良い映画でした。当時『レオン』は〝ちょっと通好みの映画〟みたいな立ち位置でありながら、多くの人が知っていて、何となくオシャレな雰囲気がある、だけれども娯楽性溢れた作品、それが『レオン』でした。それに何となく『ダイ・ハード』とは言い難く、正直に言うと『ダイ・ハード』と言うのが恥ずかしかったのです。

(ただ今も僕は『レオン』も大好きです。風邪薬を飲む時やフリスクを食べる時、暖簾を潜る時は、よくゲイリー・オールドマンの真似をします。)

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こういう玉暖簾を見るとテンション上がって真似します。

つまり僕は『ダイ・ハード』と言う勇気が無く、『レオン』に逃げていたのです。そんな過去があるだけに、僕は「オールタイムベストはダイ・ハードだ」と自信を持って言えませんでした。『ダイ・ハード』に後ろめたさを感じていたのかも知れない。あいつはいつだって僕の傍に居たのに、だけど僕は本当のあいつの事を見ていなかった。目を背けていた。正面から見る勇気が無かった。目を見て「大好きだ」と言える自信が無かった。そんな臆病者な僕なのに、あいつは…今も…僕の目の前にいる…。(本棚に「ダイ・ハード 吹替の帝王コンプリート・ブルーレイBOX」がある的な意味で)

僕のオールタイムベストは何なのか。何度も吟味した。だけど、何度考えても答えは同じでした。『ダイ・ハード』です。これはもう、僕の血肉になっていると言っても過言では無い作品なのです。『ダイ・ハード』と共に育ちました。小学生でアクションの魅力に取りつかれ、中学生でキャラクターの魅力に気づき、大学生で脚本や構成の妙に打ちのめされました。成長と共に『ダイ・ハード』に惹きこまれていきました。今も映画を見るときに「脚本の伏線」や「キャラクター像」を強く評価してしまうのは『ダイ・ハード』の影響なのです。大切なことはみんな『ダイ・ハード』から教わった。僕を形作ったのは、『ダイ・ハード』なのです。

長々と書きましたが、そんな訳で僕の#私の平成ベスト映画は『ダイ・ハードです。(これが言いたがために4000文字近く書きました。)