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【ネタバレなし】『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』感想

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パステルカラーのJOKER」「アンパンマンだと思って観たら攻殻機動隊だった程の衝撃」等のひねた感想が先行して変なイメージが付いてしまった本作ですが、その実、キャラクターを大事にした、非常に丁寧で、シンプルな、しっかりとした子供向きな映画でした。そして子供向きだからこそ、大人にも突き刺さる内容でもありました。

すみっコの魅力と愛が詰まった作品
娘が好きなので少しだけ知っていましたが、そこまで愛着を感じていなかった僕でも、映画鑑賞後はすみっコたちのことが大好きになりました。すぐにでも自宅に迎え入れたい衝動に駆られ、娘とぬいぐるみを探したくらい(売って無かったので諦めた)。それほど、本作ではすみっコたちを魅力的に描いています。すみっコたちはみんな居場所を無くしたキャラクターたちです。キャラクター設定は公式を参照して頂きたいですが、例えば「ペンギン?」は自分をペンギンだと思っているのですが、緑色のペンギンがこの世にいないことが分かって自分は何なんだ? と自分探し中です。とんかつは食べ残された肉1パーセント脂身99パーセントの端っこの部分で、いつか食べられるのを夢見ている。タピオカも食べられず残されてしまった奴ら。主要キャラは何らかの理由により居場所を無くし、同じ居場所が無い者同士すみっコで寄り添って仲良く暮らしています。

先述の通り、本作を評して「パステルカラーのJOKER」という言葉がありますが、これが微妙に合っているのは、この設定です。『JOKER』は誰からも認められず、居場所が無い主人公が妄想と現実の中で己の存在を認めさせるために行動を起こし、カリスマ性を発揮していくような物語でした。JOKERの主人公は終始一人だったのですが(正確に言うと、認められたいと思った人に対してだけ認められず、やけになっていく物語。主人公に対して手を差し伸べた人もいたが、それは主人公が求める人間では無かった)、対してすみっコ達は、同じような境遇の仲間たちで手を取り合って過ごしています。これが「パステルカラーのJOKER」と言われるところだと思うのですが、他に共通点はありません。僕は見つけられませんでした。なのでこの言葉を鵜呑みにして鑑賞するのは大きなギャップがあるので注意が必要です。 

子供向けのキャラクターに暗い設定があるのは昔からある手法だし、すみっコを作ったサンエックスの他のキャラクターにも、例えば「こげぱん」や「リラックマ」にも同様の手法が見られます。制作者にどこまで考えがあるのか分かりませんが、ある程度深みのある設定にしておくと、受け手が想像を膨らましてキャラを掘り下げていき、自分だけのキャラを作り上げて、キャラクターへの共感を深めていくのだと思います。すみっコ達のように、居場所がなくなってしまった人たち、学校や職場への居心地を悪く感じている人たちが多くいる現代社会で、彼らに共感し、癒しを貰っている人たちがいるのは素晴らしい事だと思います。

あと、単純に見た目が可愛いです。本作では、その可愛らしさが遺憾なく発揮されています。

丁寧でシンプルな演出が魅力
本作は徹頭徹尾すみっコの魅力で描き続ける子供向けキャラクター映画です。それ以下でも以上でも無く、一切逸脱することが無く、キャラクターの魅力を描いた作品です。それ故に子供にも大人にも刺さる作品だと思いました。まず冒頭で、すみっコたちのキャラ紹介が流れます。すみっコを知らない人でも安心して鑑賞できる設計です。そしてすみっコたちは喋る事が無く、顔の上に文字で表現されるにとどまるのですが、これがキャラクターの声を各々が想像できるので、キャラクターをより魅力的なモノにしていると思いました。制作者がキャラクターを大事にしている証拠だと思います。

すみっコのセリフだけでは説明不足になってしまうので、ナレーションが入ります。ナレーターの井ノ原快彦さんの温かみのある声質が作品の世界観とマッチしており、より癒し度が高められていました。また、すみっコの感情や行動もナレーターが声で説明してくれるので、すみっコの浮かび上がる文字が咄嗟に読めない小さな子供でも安心して鑑賞する事が出来ます。そして、すみっコたちのほのぼのとしたやり取りと、絵本の世界へ飛ばされてしまったすみっコたちのゆるい活躍が、ゲストキャラの「ひよこ」を中心に展開します。

「ひよこ」は自分がどこから来たのかも分かりません。自分の事が分からないところに共感したペンギン?が自分探しを手伝います。絵本の世界を行き来して、ひよこの居場所を探す旅が始まりました・・・というのがあらすじで、ひよことすみっコたちが冒険を通して交流し、心を通わせる過程がシンプルに描かれているのが素晴らしかったです。シンプルであるがゆえに子供にも伝わりやすく、シンプルであるがゆえに大人はいろいろ想像して世界観に没入していきます。例えば物語の終盤、ひよこの正体が判明するシーンは、すみっコとひよこが会話するのではなく、ナレーターが全部説明してくれます。大人向けの映画なら1~10まで話す説明台詞は個人的には萎える展開ですが、本作では魅力に感じました。説明をナレーターに任せた事によって、すみっコとひよこの交流をじっくり描く事が出来るからです。その丁寧でシンプルな演出がすみっコたちの世界観と非常にマッチしていて、最後は非常に感動させられました。

「声を出して笑っても良い」という劇場の空気が素晴らしい
本作の素晴らしさは劇場全体の空気感にもあります。本作は子供向けの作品なので、劇場では子供たちがたくさん笑います。そして周りが笑っていると、他の子供も笑います。笑っても大丈夫なんだという空気は劇場全体を包んで、作品をより魅力的なモノにしていました。うちの娘はいろいろ気にする性分なので、周りが大笑いしたり、突っ込みを入れたりする声を聴いて安心して笑っているようでした。劇場全体に優しい癒しの空気が流れているようで、非常に居心地が良く、映画を堪能出来ました。

エンドロールの余韻が最高
最後のエンドロールが最高です。原田知世さんの優しい歌声に乗せて流れるエンドロールの背景は、今年見た映画の中のベストシーンと言っても過言ではないです。すみっコたちの優しさが溢れる名エンドロールでした。エンドロールが素晴らしい映画は例外なく傑作なので(例:ジャッキー映画)、本作はやはり傑作です。

子供も大人も楽しめる優しさに溢れた映画
そんな訳で『映画 すみっコぐらし』は子供だけでなく大人も、老若男女にオススメ出来る優しい映画です。僕も泣いたし娘も泣きました。作品を通して、共感して、子供も泣けるというのは素晴らしい事だと思います。それだけの力を持った傑作でした。是非多くの人に観て欲しいと思える、優しい映画です。